ゲーム「ダークエリス」のキャラクターが登場します。
小説版ダークエリスではゲーム本編とストーリー内容が一部異なることがございます。
第1章完結までは毎日21時ごろ投稿予定です。
第1章
プロローグ
仕事帰りに立ち寄ったカードショップで、俺はショーケースをじっと見つめていた。
そこには、カードゲーム「ダークエリス」の幻の第1弾パックが輝いていた。
小さな箱に収まったそのパックは、どこか神秘的なオーラを放っているように見えた。
「これがあの幻のアルファ版か…」
俺は心の中でつぶやいた。高額な値札に一瞬ためらったものの、諦めきれない気持ちが勝った。
クレジットカードを手に、レジに向かうと決心した。
帰宅すると、俺は真っ先にコレクションケースの前に向かった。
手には購入したばかりのパックを握りしめている。胸の高鳴りが止まらない。
「これは貴重なパックだ、慎重に開封しないと…」
自分にそう言い聞かせながらも、気づいたときにはすでに手でバリバリとパックを開封してしまっていた。中身がどうしても気になり、理性を失っていたのだ。
封を開けた瞬間、強烈な香りが俺の鼻を突いた。
その香りはむせ返るほどで、彼は思わず目眩を覚え、その場に崩れ落ちた。
薄れゆく意識の中で、俺は誰かの声を聞いた。

「主様、お目覚めになりましたか?」
目を開けると、そこには美しい長い白髪と灼眼の女騎士が立っていた。彼女の瞳はまるで宝石のようにかがやいていた。
「ここは…どこだ?」
俺は混乱していた。先ほどまでカードショップにいたはずなのに、今は見知らぬ場所にいる。
「ここは冥界です、主様。私はエリス、あなたのお側に仕える者です。」
俺は理解できないまま、少女の言葉に耳を傾けた。
もしかして俺はカードゲームの世界に足を踏み入れてしまったのか・・・?
目の前の少女は、魔王である俺を待っていたという。
「主様、私の声は聞こえますか?」
俺は驚きと興奮の入り混じった感情を抱えながら、新しい冒険の始まりを受け入れるしかなかった。
魔王ルシフェル
暗い森の中、冷たい霧が漂い、木々の影が不気味に揺れている。
その森の中で、俺はぼんやりと立っていた。
「主様…とりあえずこの森を出ましょう。」
エリスの声が静かに響く。
彼女は俺の側に寄り添い、その言葉には緊張が滲んでいた。しかし、突然その緊張が増幅した。
「…誰!?」
エリスの目が鋭く光り、周囲を警戒する。
すると、闇の中から妖艶な声が聞こえてきた。
「あら、魔王ルシフェル。久しぶりじゃない。私の事忘れてないわよね? ちょうどランチの時間なのよ、さっそく殺し合いをしましょう?」
闇の中から現れたのは、長い黒髪をなびかせた獣人の女性だった。
彼女の鋭い目は、まるで獲物を狙う捕食者のように俺たちを見据えていた。
ルシフェル、どうやらそれがこの世界での俺の名のようだ。
「お前は誰だ」
「あら、忘れちゃったの? 残念だわ。私の名はレオネ。体で思い出してもらうしかないわね?」
「主様、お目覚めのところ申し訳ございませんが、戦闘は避けられません!」
エリスの声が緊張に満ちる中、俺はその場の緊張感を感じ取りながらも、内に秘めた力が自然と湧き上がってくるのを感じていた。
「ふん、ならば俺がお前の相手をしてやろう。」
突如、頭の中に魔王ルシフェルの意識が流れてくる。これがこの世界の魔王の力なのか?
周囲には炎のような魔力のオーラが立ち上った。レオネの目が一瞬驚きに見開かれる。
「面白いわね。でも、私に勝てるかしら?」
レオネは挑発的に笑い、鋭い爪を振るって襲いかかってきた。
その動きは獣のように速く、そして力強かった。しかし、ルシフェルは動じなかった。
「エリス、下がっていろ。」
ルシフェルは手を前にかざし、強力な闇の魔法を放った。
その一撃はレオネの動きを止め、彼女を数歩後退させた。
「何て力…!」
レオネは驚愕の表情を浮かべ、さらに激しく攻撃を仕掛けてきた。
しかし、ルシフェルはその攻撃を軽々とかわし、逆に強烈な魔法の一撃を次々と放った。
「これが俺の力だ。」
魔法はレオネの動きを完全に封じ込め、その場に膝をつかせるまで追い込んだ。
「降参だわ……、あなたの力は衰えていないようね。」
レオネは息を切らしながらも、ルシフェルの前に膝をつき、降参の意を示した。
ルシフェルはその姿を見下ろしながら、二人は森の出口に向かって歩き出した。
地獄の門
暗い森の中、魔王ルシフェルはエリスと共に進んでいた。
「主様、この森は敵も多く危険です。早く脱出しましょう! そのためにはまず地獄の門を通らねばなりません。」
エリスの言葉にルシフェルはうなずいたが、彼の目は周囲の動きに警戒を払っていた。
突然、目の前の茂みからスライムがぬるりと現れた。
「スライムか、少し遊んでやろう。」
ルシフェルは手をかざし、魔力を集中させた。炎の魔法がスライムに向かって放たれ、一瞬でそれを焼き尽くした。しかし、次々と現れるスライムたちが二人に襲いかかってくる。
「エリス、援護を頼む!」
「かしこまりました、主様!」
エリスは素早く動き、剣でスライムを次々と倒していった。二人は協力しながら、森の奥へと進んでいく。
やがて、森の深部にたどり着くと、巨大な黒い門が現れた。その前には、恐ろしい姿をした門番が立ちふさがっていた。
「これが地獄の門か…」
ルシフェルがつぶやくと、エリスが説明を続けた。
「地獄の門は、主様の城がある地獄の奥底へとつながっており、通るには門番を倒す必要があります。」
門番の声が低く響いた。
「ココハトオサナイ。」
ルシフェルは構えを取り、エリスに指示を出した。
「エリス、戦闘準備を!」
エリスは剣を構え、ルシフェルの隣に立った。
門番は巨大な斧を振りかざし、二人に襲いかかってきた。
「いくぞ!」
ルシフェルは強力な魔法を放ち、門番に攻撃を仕掛けた。
炎の渦が門番を包み込むが、彼はそれを耐え抜き、反撃に出た。
巨大な斧が振り下ろされ、地面が割れる。
エリスはその隙を狙い、剣を振るう。
ルシフェルも負けじと、次々に強力な魔法を繰り出していく。
門番の動きが徐々に鈍くなり、最後にはルシフェルの一撃が決定打となった。
「これで終わりだ!」
ルシフェルの暗黒魔法が門番に直撃し、門番は崩れ落ちた。
「やりましたね、主様!」
エリスが喜びの声を上げると、ルシフェルは満足げに頷いた。
「ああ」
二人は倒れた門番を越え、巨大な黒い門を押し開いた。
その先には、ルシフェルの城が待つ地獄への螺旋階段が広がっていた。
アケロン川
ルシフェルとエリスは、地獄の門をくぐり抜けた後、螺旋階段を下りていった。
階段の周りには薄暗い霧が漂い、彼らの足音に合わせて響く死者の悲鳴がこだましていた。
泣き叫ぶ声を横目に進み続け、ついに階段の出口にたどり着いた。
目の前には、血の色を帯びた大河が広がっていた。
「ここはアケロン川です。亡き者が蠢いていて、死者に引きずり込まれる危険があります。」
川の流れには無数の手がうごめいており、亡者の声がかすかに聞こえる。
ルシフェルはその光景をじっと見つめた。
「この川を渡らないと先に進めないということか?」
「はい、主様。アケロン川を渡るには、客船レクイエム号に乗る必要があります。」
彼らは川岸に向かって歩き始め、レクイエム号の案内をしている船長に会うことにした。
レクイエム号の船長は長い金髪の少女だった。
彼女の優しい笑顔が、暗い地獄の風景の中で異彩を放っていた。
「ようこそ、レクイエム号へ。私は船長のカローンです。」
カローンはにっこりと笑った。しかし、その顔にはどこか困惑の色が浮かんでいた。
「レクイエム号に乗りたいんだが」
「ごめんなさい、今は乗船できません。死者が船にまとわりついていて運行ができないんです。」
ルシフェルは眉をひそめた。
「それなら、どうすれば船を動かせる?」
「死者を取り除かなければなりません。でも、強い魔法を使うと船ごと破壊してしまうかもしれません。」
ルシフェルとエリスは方法を考えたが、なかなか良い案が浮かばなかった。
しばらく考えた末、ルシフェルがあるプランをひらめいた。
「エリス、君におとりになってもらおう。君が亡者を引き寄せたら、俺が一網打尽にするんだ。」
エリスは目を大きく見開き、叫んだ。
「えー!? 本気ですか、主様!? 」
ルシフェルは真剣な表情で頷いた。
「これしか方法はない。君ならできる。」
エリスはしぶしぶ承諾し、川岸で亡者を引き寄せる役を引き受けた。
彼女が川の近くに立つと、亡者たちが彼女に向かってうごめき始めた。
「きゃー! 主様、助けてください!」
エリスは沢山の亡者から逃げ回った。
タイミングを見てルシフェルは爆発魔法を発動し、エリスを狙って集まった亡者たちを一気に攻撃した。
「これで終わりだ!」
一網打尽にされた亡者たちは爆散し、カローンはその光景を見て感嘆の声を上げた。
「ありがとうございます! これで船を動かせます!」
「はあ、大変だったわ」
ルシフェル、エリス、そしてカローンは無事にレクイエム号に乗り込んだ。
「出航します!」
船はゆっくりと血の色を帯びたアケロン川を進んでいった。
レクイエム号
レクイエム号は静かにアケロン川を進んでいた。
川の両岸には亡者たちが見え隠れし、暗い雰囲気が漂っているが、船内は別世界のように明るく賑やかだった。
ルシフェルとエリスは、船内のバイキングで豪華な料理に舌鼓を打っていた。
テーブルには様々な料理が並び、どれもこれも美味しそうだった。
特に、鮮やかな果物の盛り合わせや、ジューシーなローストビーフが目を引いた。
「これはすごいな、エリス。地獄にもこんな贅沢があるなんて。」
「本当にそうですね、主様。これだけの料理、なかなかお目にかかれません。」
エリスは楽しそうに食事を楽しんでいた。
食事を終えた後、二人は船内のプールへと向かった。
プールサイドにはリゾートのような雰囲気が広がり、心地よい音楽が流れていた。
ルシフェルは水着姿のエリスを見ると、思わず目を見張った。
「エリス、その水着、似合ってるじゃないか。」
エリスは顔を赤くし、恥ずかしそうに身をよじった。
「主様、そんなに見ないでください…恥ずかしいです。」
ルシフェルは笑いながら、プールに飛び込んだ。
水は冷たく心地よかった。
エリスも恥ずかしそうにしながらもプールに入ると、二人は楽しそうに水遊びを始めた。
「こっちだ、エリス!」
「負けませんよ、主様!」
二人は笑い声を響かせながら、プールの中で泳いだり、水を掛け合ったりして遊んだ。
エリスの水着姿は初めて見るルシフェルにとって新鮮で、彼女の笑顔が一層輝いて見えた。
プールでたっぷり遊んだ後、二人は着替えデッキチェアに座りながら船外の景色を眺めた。
「楽しかったな、エリス。」
「はい、主様。本当に楽しかったです。」
エリスは微笑みながら、そろそろ寝る準備をしようと立ち上がった。ルシフェルもそれに続いた。
ところが、その時だった。船が突然大きく揺れた。
「なんだ?」
ルシフェルが驚いてデッキを見渡すと、アケロン川の水面が大きく波立ち、巨大な影が浮かび上がってきた。
「クラーケン…!」
エリスが叫んだ。水面から姿を現したのは、船よりもはるかに大きな巨大なクラーケンだった。
無数の触手がうねり、クラーケンの巨大な触手がデッキにいたエリスに向かって襲いかかった。
「エリス、気をつけろ!」
ルシフェルの警告もむなしく、エリスは触手に捕らえられてしまった。
クラーケンの強力な触手に締め付けられ、エリスは苦しげに声を上げた。
「主様…助けて…!」
ルシフェルはエリスを目の当たりにし、心臓が凍りつくような感覚に襲われた。
「待っていろ、エリス!今助ける!」
冥界のクラーケン
触手はエリスの体を強く締め付け、その痛みにエリスは苦しそうに声を上げていた。
「く、苦しい……!」
その時、船長のカローンが船の甲板に現れた。
彼女の顔には焦りの色が浮かんでいたが、冷静な声でルシフェルに助言を与えた。
「クラーケンの弱点は雷です! あなたなら倒せるかもしれません!」
ルシフェルはカローンの言葉に頷き、魔力を集め始めた。
雷魔法を詠唱するために、集中力を高めていく。
「天より来たれ、雷の力よ。暗き海を裂き、我が敵を撃ち倒せ…」
「雷鳴の裁き、サンダーストーム!」
ルシフェルの声が響き渡ると同時に、空から巨大な雷が落ち、クラーケンに直撃した。
クラーケンは激しく痙攣し、その触手からエリスを放り出した。
「エリス!」
ルシフェルは素早くエリスのもとに駆け寄り、彼女を抱きしめた。
エリスは少し恥ずかしそうに顔を赤らめたが、ルシフェルの胸にしっかりと身を寄せた。
「ありがとう、主様…」
彼らが安堵の息をつく間に、クラーケンは完全に撃退され、その巨大な体が水中に沈んでいった。
カローンは彼らのもとに歩み寄り、安心したように微笑んだ。
「お客様、お怪我はございませんか?」
「ええ、なんとか」
「クラーケンを倒してくださり、本当にありがとうございます。」
ルシフェルとエリスは頷き、再び船内に戻った。
カローンは操縦室に戻り、船を再び動かし始めた。
「トラブルもありましたが、まもなく辺獄に到着いたします」
カローンの声が船内に響き渡り、ルシフェルとエリスは新たな地、辺獄に向けて心の準備をした。
魔法学校
エリスとルシフェルがレクイエム号から降り立つと、そこは辺獄だった。
辺獄の風景は薄暗く、冷たい霧が漂っていたが、エリスはその地に到着したことに喜びの声を上げた。
「主様、ようやく辺獄に着きました。ここにはデモンズ魔法学校があります。優秀な学生がたくさんいて、とても楽しみです。」
ルシフェルはその言葉に頷き、彼らはデモンズ魔法学校へと向かうことにした。
しかし、学校に近づくにつれ、エリスの顔に不安の色が浮かび始めた。
「普段はこの校門は厳重に守られていて、閉じられているはずなのに……どうして開いているんでしょう。」
校門は開かれており、いつもなら守衛がいるはずの場所には誰もいなかった。
一行はデモンズ魔法学校の門をくぐり、校内に足を踏み入れた。
だが、普段は賑やかなはずの廊下や教室には、人影が見当たらなかった。
「おかしいな…」
ルシフェルは歩きながら、周囲を警戒していた。
そして、突然、彼はとてつもない魔力を感じ取った。
その直後、廊下の向こうから声が響いた。
「貴方達、ここは危険です。早く避難しなさい。」
ルシフェルとエリスが声の方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
「エピクロス! あなたがいるのに学校に生徒がいないのはどういうこと?」
エリスが叫ぶと、エピクロスは冷静な表情で答えた。
「どうやら魔王様は無事のようね、エリス。端的に言うと、何者かが禁断の魔法を使って校内に混沌をもたらしたの。生徒たちは現在避難しているけど、まだ何人かの生徒が悪に立ち向かっているわ。」
エリスが険しい顔で呟いた。
「禁断の魔法…まずいわね。この状況を早急に収束しなければ。」
その瞬間、エピクロスの顔色が変わった。
「危ない! エリス、後ろよ!」
突如放たれた眩い光線がエリスを狙ったが、エピクロスの素早い魔法で光線は大きく外れ、壁に激突した。
「不意打ちなんて、卑怯な奴……!」
声の方向を見ると、そこには高慢な表情の魔法使いが立っていた。
「この私、調停者クリスがあなた方を粛清します。」
エピクロスが厳しい目でクリスを睨みつけた。
「どうやら講習に来たわけじゃなさそうね。」
光の調停者
クリスは不敵な笑みを浮かべ、ルシフェルとエリスを見下すように立っていた。
ルシフェルは魔力を集中させ、エリスは剣を構えて戦闘態勢に入った。
「この私、調停者クリスがあなた方を粛清します。」
クリスの言葉が響き渡ると同時に、彼女は手を上げ、強烈な光の魔法を放った。
ルシフェルは即座に反応し、魔法の防御壁を展開した。
「エリス、気をつけろ!」
防御壁は光の魔法を受け止めたが、その威力は強く、壁に亀裂が入った。
エリスは素早くその隙を突いて前進し、クリスに向かって突進した。
「あなたの魔法なんて効かないわ!」
エリスは短剣を振りかざし、クリスに向かって斬りかかる。
しかし、クリスは冷静に手を振り、エリスを弾き飛ばす魔法を放った。
エリスは空中で体勢を整え、地面に着地した。
「しぶといわね。」
「あなたこそ!」
ルシフェルは再び魔法を発動し、雷の魔法を詠唱し始めた。
「天の雷よ、我が敵を討ち倒せ!」
雷鳴が轟き、巨大な雷がクリスに向かって落ちた。
クリスは瞬時に防御の魔法を展開し、雷を受け止めたが、その威力に押し負け、後退した。
「さすがの魔力・・・、だがこれで終わりではない!」
クリスは両手を広げ、魔法を使って無数の光の剣を生成した。
それらの光の剣はルシフェルとエリスに向かって襲いかかった。
「そんな小手先の魔法!」
エリスは剣を輝かせ、光の剣を切り裂きながらクリスへ突撃した。
「ここで終わらせるわ!」
エリスはクリスに攻撃を仕掛けたが、クリスは冷静に微笑み、呟いた。
「ふふふ、罪はいつか裁かれる…」
その言葉と共に、クリスは背後に闇のポータルを開き、一瞬でその中へと飛び込んだ。
「待ちなさい、クリス!」
エリスは叫びながら追いかけようとしたが、クリスはまばゆい光を発し、その姿は消えた。
エピクロスがエリスの肩に手を置き、静かに言った。
「追いかけても無駄よ。まずはこの状況を解決するのが先でしょう?」
エリスは悔しそうに唇を噛みしめたが、すぐにその手を振り払った。
「あなたに言われたくないわよ。」
「エリスとエピクロスってどういう仲なんだ?」
「別に。」
エピクロスは笑みを浮かべ、昔を懐かしむように言った。
「昔はあんなにかわいい生徒だったのに、どうしちゃったのかしらね~。」
エリスはその言葉に少し顔を赤らめた。
「そんな過去のことより、先を急ぐわよ。」
一行は再び進み始め、デモンズ魔法学校の廊下を歩き続けた。
エリスたちはエピクロスの指示通り、上の階へと急いだ。
復讐連鎖
廊下を進むと、突然ゴーレムの咆哮が響き渡った。
「ンゴー!」
エピクロスは驚きの表情を浮かべた。
「このゴーレムは封印されていたもの…!一体誰が封印を解いたのでしょうか。」
「ンゴゴー!」
1体かと思われたゴーレムは次々と増えていく。
「ゴーレムの数が多いわね。エリスたちは上の階に行ってなさい。ゴーレムは私がここで食い止めます。」
エリスは不安げにエピクロスを見て言った。
「あなた一人で大丈夫かしら・・・」
「任せなさい。それよりエリスはこのゴーレムを操っている者を探しなさい。」
「…わかったわ。」
一行は上の階へと向かった。そこには氷のような色の長髪の少女が、何者かと戦っていた。
その少女の感情はほとんど表に出ていなかったが、その美しさは一際目を引いた。
「ここは通さない。氷雪の壁、アイスウォール!」
「凄い…なんて厚い氷の壁!」
エリスはその光景に目を見張った。
「私はエリス、あなたは?」
「ルミ。味方か敵か分かりませんが、味方なら助けてください。」
エリスは振り返り、ルシフェルに目を向けた。
「主様、助けましょう!」
すると突然、敵の声が響いた。
「我が復讐の邪魔をするな!レイン・オブ・ブラッド!」
大きな刀を持つ長い白髪の少女が現れ、その刀を振り下ろすと、凄まじい金属音と共に衝撃波がエリスに襲いかかった。
「危ない!」
ルシフェルが叫んだ。
エリスは即座に反応し、衝撃波を一刀両断した。
少女は驚いた様子で口を開いた。
「お前、よく防いだな。私はカイラ、お前の名は?」
「エリスよ。」
カイラはにやりと笑った。
「お前に興味が出てきた。はたして、この斬撃に耐えれるか?」
カイラは再び刀を振り上げ、猛烈な斬撃をエリスに向かって繰り出した。
エリスは瞬時に回避し、短剣を握り締めて反撃の構えを取った。
斬撃が激しく交錯し、金属音が廊下中に響き渡る。
「この程度じゃ、私は倒せないわよ?」
エリスは叫びながら、カイラに攻撃を続けた。
ルミも加勢に入り、氷の魔法を使ってカイラの動きを封じ込める。
「今よ!」
ルシフェルとエリスはその隙を突いて、カイラに向かって全力で攻撃をした。
「終わりよ!」
カイラは一瞬驚愕の表情を浮かべ、そしてついに膝から崩れ落ちた。
「やる…じゃ…ない…」
カイラはそう言い残すと、意識を失った。
ルミは息を整えながら、感謝の言葉を述べた。
「皆様、ありがとうございます。それにしても、襲ってきた者たちは何を企んでいるんでしょうか?」
エリスは考え込んだ。
「今は何も分からないわ。ただ地獄の秩序が乱れていることに関係がありそうね。」
エリスはルミに向かって質問した。
「ルミは、教頭先生の行方は知らない?」
「教頭先生は強力な魔女を追って戦っているはずです。闘技場の方で激しい戦闘の光が見えました。おそらくそこです。」
「あと…加勢に行ったトゥリの様子を見に行ってくれませんか?赤髪の炎を使う魔法使いです。」
「わかったわ。」
禁断の魔法
エリスたちが闘技場に着くと、そこにはルミの言っていた赤髪の魔法使いの少女が戦っていた。
彼女は燃え盛る炎を操り、敵を次々と焼き尽くしていた。
「あー、ほんと面倒くさい!こいつらまるで飛んで火にいる夏の虫ね!」
赤髪の少女、トゥリが叫んだ。
「私の炎に焼かれてそんなに嬉しいの? 悪魔の業火! ダークファイアーズ!」
エリスはその圧倒的な炎の力に目を見張った。
「凄いわね…! こんな灼熱魔法見たことないわ」
「ねえ、そこにいるあなた達、感想言ってないで仲間なら手伝ってよ!」
「サポートしましょう!」
突然、ドラゴンが現れ、巨大な体を振りかざして襲いかかってきた。
「グオォァアーーー!」
ルシフェルは炎魔法を放ったが、ドラゴンはその攻撃を受けてもなお立ち上がり、怒り狂ったように暴れた。
エリスはルシフェルに続いて魔法を発動させた。
「闇の力をこの手に! ダークフォース!」
漆黒の闇がドラゴンを包み込み、その動きを鈍らせた。
「主様、今です!」
エリスが叫ぶと、ルシフェルは雷の魔法を唱えた。
「雷神の怒りよ、我が敵を討て! ライトニングボルテックス!」
雷が再びドラゴンを直撃し、その巨体が崩れ落ちた。
エリスは急いでドラゴンの体に近づき、最終的な一撃を加えた。
「ラストオブゴッド!」
ドラゴンは力尽き、地面に倒れ伏した。
トゥリは感嘆の声を上げた。
「あんたたちなかなかやるじゃない! 気に入ったわ、今日から私の弟子にしてあげる。」
エリスは微笑みながらも冷静に返答した。
「弟子入りを頼んだ覚えはないけれど。」
「……まだ気を抜くのは早いわ!」
その瞬間、目の前に銀髪の魔法使いが現れた。
その姿にはどこか幼さもありながらも、ただならぬ殺意を放っていた。
「久しぶりじゃない、エリス…。あら、魔王様も。私のことは覚えてるかしら?まあ、覚えてなさそうよね。ふふふ。」
エリスはその声に驚き、顔をしかめた。
「ネヴァン、そんな…貴方だったのね。どうしてこんな事をするのよ!」
ルシフェルはエリスに問いかけた。
「エリス、なぜ彼女の事を知っているんだ?」
「彼女は私の同級生だったのよ。この学校の。」
エリスは険しい表情で答えた。
「ここは魔王様が創られた学校って知ってるわよね? 貴方、こんな事したらもっと罪が重くなるわよ!」
ネヴァンは冷たく笑いながら答えた。
「…これも計画のためよ。あなた達全員、死んでもらうわ!」
「あなたは魔王様の配下だったのに…どうしてこんな事に…」
「ごめんなさいね? 私だってこうするしかないのよ?」
ネヴァンは禁断の魔法を唱え始めた。辺りが闇に包まれていく。
「死の魔法です! 主様、離れて!」
「…レスト!」
ネヴァンの唱えた魔法がルシフェルを標的にした。その瞬間、絶望が広がる。
だが、その時だった。
「プロテクション!」
光の防御壁が死の魔法を打ち消していく。
「あなたが教頭ね?」
エリスがその姿を見て安堵の表情を浮かべた。
「アーサー先生! 怖かったよ…」
トゥリが涙を浮かべながら叫んだ。
そこには教頭、アーサーが立っていた。
冷静で力強い瞳が光っている。
「ふう、間に合いましたか。皆さんご無事みたいですね。」
ネヴァンは苛立ちの表情を見せた。
「邪魔よ、アーサー。」
「私たちの学校を、不浄なるもの共に攻め落とさせるわけにはいきません!」
アーサーは強い意志を込めて言い放った。
「じゃあみんな死んでもらうね!」
ネヴァンはさらに魔力を高め、強大な魔力を放とうとしていた。
フレイムエクスプロージョン!
アーサーは静かに、しかし力強く言った。
「そうはさせません! プロテクション!」
彼は優雅な動作で魔導書を取り出し、魔法のようなバリアを展開する。
そのバリアがネヴァンの魔法を跳ね返し、地面を震わせた。
「この程度で止められると思わないことね! 来たれ、神よ!」
ネヴァンは闇に輝くアーティファクトを手にすると、空まで闇に包まれた。
そして目の前に現れたのはこの世のものとは思えない神だった。
「我は永遠なる者、世界は無情なり」
「もしかして、神を召喚したというの・・・!?」
エリスが驚愕の声を上げた。
「こわい・・・こわいよ・・・」
トゥリは震えながらつぶやいた。
「生徒の皆さんは今すぐ避難してください!」
アーサーは急いで生徒たちに指示を出した。
「アハハハハ! 貴方達の怯えている表情、最高にいいわ! こいつは無常の神、生きとし生けるもの全て儚く散るのよ!」
「トゥリ! 大丈夫!?」
トゥリを心配してルミが駆け寄った。その時だった
「ルミ、ここに来ちゃダメ! 逃げて!」
「無常の神、あの娘を殺りなさい!」
ネヴァンが命じた。無常の神はルミを標的にして光線を放ち、凄まじい爆風が辺りを吹き抜けた。
「ねえ嘘でしょ・・・ルミ・・・ルミ・・・ルミが死んじゃったよ・・・」
トゥリが呆然と立ち尽くした。ルミのいた辺り一面は爆風で見えない。
「アハハハハ! 最高にクールだわ! ねえ、無常の神。そこの奴らもヤっちゃってよ!」
ネヴァンが高笑いを続けた。
エリスは怒りに震えながら叫んだ。
「ネヴァン、私はあなたを許さない!」
「エリス、私は今楽しんでいるのよ? 邪魔するならあなたも消すわ。」
ネヴァンが冷たく答えた。
「ここで終わらせます!」
「世の理に逆らうとは…」
無常の神が呟いた。
「手強い相手ですが、私達なら神にだって勝てます!」
エリスは剣を振るい、神の防御を突き破ろうとしたが、神は微動だにしなかった。
ルシフェルは火の魔法を駆使し、神の体を焼こうと試みた。
「フレイムバースト!」
巨大な炎が神を包んだが、神はその中から悠然と現れた。
「全く歯が立たないわね、どうすればいいのよ……!」
エリスは歯を食いしばった。
無常の神は強大な力を蓄え、エリスに向けて放とうとしている。
その時、ルシフェルは思いついた。
アーサーのプロテクションが反射魔法だとしたら強大な力も反射できるのではないかと。
「アーサー、奴の攻撃をプロテクション出来るか?」
「……出来るかわからないですが、やってみましょう」
無常の神は、力を完全まで溜め、エリスに向けて光線を放った。
アーサーはエリスの目の前に立ち防御魔法を唱えた。
「あなた死ぬ気!?」
「プロテクション!」
光のバリアが神の攻撃を反射し、神を貫き、神はついに膝をついた。
その時だった。
「神の力もその程度ですか。」
聞き覚えのある少女の声が響いた。ルミは生きていたのだ!
「あなた生きていたの!?」
ネヴァンが驚愕の声を上げた。
「殺しを楽しむのは殺される覚悟がある者だけですよ? トゥリ! 今よ!」
ルミが冷静に指示を出した。
「任せて! このために魔力を貯めてたんだから!」
トゥリは全力で魔法を発動させた。
「フレイムエクスプロージョン!」
巨大な爆発が神を直撃し、無常の神は粉々に砕け散った。
「私、神倒しちゃった…!?」
トゥリが驚愕の表情を浮かべた。
ネヴァンは冷たく笑いながら言った。
「ああ、つまんないの。やっぱり使えなかったわ無常の神。あいつ、この世に無常のものはないと自ら示したわね。ちょっと不利だし、私は帰らせてもらうわ。」
「待ちなさい、ネヴァン。あなたを逃がすわけにはいかないわ。」
「ふふふ、エリス。また会いましょう?」
ネヴァンは暗黒の中へと消えていった。